ソン・ガンと「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」,2021年3月〜2021年4月,TvN/Netflix

韓国傑作ドラマ批評(11)
◆オススメ度(★〜★★★★★):★★★★

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ナビレラ(2021)

◆概略:
韓国Webtoon(ネット漫画)<나빌레라>が原作のヒューマンドラマ。
主な登場人物は、デビューを目指している青年バレリーノ、チェロク(송강:ソン・ガン)と、彼のマネージャーをする代わりに、個人レッスンを受けることになった老人トクチュル(박인환:パク・インファン)。青年と老人はバレエを介して世代を超越した友情を育み、互いに支え合いながら、自己の外延を拡張していく。
 
主演男優の#パク・インファンは、2021年時点で75歳と高齢にも関わらず、老体に鞭打って初めてバレエを習いながら役柄を完璧に演じ切った。母性本能をくすぐらせるチャーミングな表情や仕草ゆえに、ドアップで映し出されても目が楽しい。このような可愛い老人になりたいと思わせてくれる、魅力的な人。
 
もう一人の主演男優、#ソン・ガンについては、筆者の思い入れが強いので、以下に別途項目を設けて熱く語りたい。
 
 ◆ソン・ガン(송강)の魅力:

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ソン・ガン(写真の出典は Namoo Actors)

#ソン・ガンは、このドラマのために約半年間バレエを特訓して撮影に臨んだ努力家の26歳。身長185cmで肩幅が広い逆三角形のスリム体型。この美しいフィジカルを完成させているのは、芸術的な顔だ。これまた逆三角形の滑らかなフェイスライン、濃淡な表情を映し出す奥二重の目、そして大きくて厚いセクシーな唇は、無表情でいる時はクールで無機質な雰囲気を醸し出す。しかし、一旦その顔に感情が吹き込まれると、少年のような純粋であどけない表情が放出される。完璧なフィジカルと少年のような表情との間の奇妙なアンバランスが、彼の魅力を際立たせている。
個人的にここ最近で最も注目している俳優の一人がソン・ガンなので、彼の魅力をまとめてみた。
 
(1)作品ごとに成長する演技力:
  2019年の「悪魔がお前の名前を呼ぶとき」(TvN)では、泣くシーンで必ず下を向き今から泣きますよ的なポーズを取ったので、いささか興ざめしたものだった。しかし、2020年の「スイートホーム」(Netflix)では、まっすぐ対象を見つめながら自然に涙をぽろっと落とした。見ている方ももらい泣きしそうなくらい、泣く演技が美しかった。
 
(2)意外に(!?)広い演技の幅:
  「悪魔が...」(2019年/TVN)の時は、天使のような優しい性格でいつもニコニコしていて、ちょっと空気が読めないタイプを生き生きと演じ、泣くシーン以外は違和感がなかった。(デビューは2017年の「彼女は嘘を愛しすぎてる」(TvN)だが、2018年までの演技は、お遊戯っぽくて批評の対象には入れたくない。)
主演をつとめた「Sweet Home -俺と世界の絶望- 」(2020年/Netflix)では、自殺願望をもつ引きこもり青年を演じた。本人も、ここでの演技が一番気に入っている、とインタビューで話していたが、私も同じく。最初から最後まで笑顔を封印し、ほとんど話さず、背中を丸めていてもなお、純粋で気高い魂の叫びが瞳を通して伝わってきて、強烈な存在感を放っていた。
一番最近の作品「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」(2021年/TvN/Netflix)では、年長者を前にした韓国人とは思えないほど生意気でツンデレなチェロクを演じたが、このようなキャラも今まで演じてきた人物とは全く異なっていたので興味深かった。しかし芸術家の卵であるチェロクの性格に、そんなに怒りっぽくて礼儀知らずな側面が備わっているのかという解釈を巡っては、見ている側としてはなかなか受け入れられなかった。
 
(3)華麗な外見とは対照的な愚直な内面:
  ソン・ガンには、Yoo Teoに通じる「少年美」がある。最近YouTubeで、NYを拠点に写真作家として活躍したNikki. S. Leeが、どうやって11歳年下の夫Yoo Teo(俳優)の「少年美」を守ってきたのかを知った。ドイツ語、英語、韓国語が堪能なTeoは、10年間の無名時代をNikkiに支えてもらい、今や全世界を舞台に活躍する俳優となった。今年40歳になるTeoには、確かに「少年美」と形容可能なピュアな瞳と貴公子然としたオーラが漂っている。少年美とは、自分の価値観を社会の価値観で汚さずに保持することなのかな、と思う。TeoはNikkiの庇護の下、仕事がない間も自己研鑽に時間を使うことができた。庇護する側より受ける側の方が、より苦しかったはずだ。それでも愚直に自分の信じる道を貫き通して、自分の中の最も美しい価値観を守り通した。
ソン・ガンも、「外見第一主義」という支配的な大衆的価値観の中では、トップクラスの美貌をもっていながら、自分の外見がもつ強みに目もくれず、俳優としての実力を磨くことに愚直に向き合ってきた。その姿勢が、彼の瞳の彩光に表れているのではないかと思う。「ナビレラ」の制作発表会で、パク・インファンの妻役を演じたナ・ムンヒ(나문희)は、ソン・ガンの明るくて清らかで愚直な面が彼を稀有な存在としており、今後も変わらなければいいとコメントしていた。私も、同じことを祈っている。
 
  ◆ナビレラが投げかけたメッセージ:
他者同士である若者とシニアに向けて、他者と交わることで、自分の中にある無限な可能性を引き出すことができるのだよ、と優しく背中を押してくれるかのような作品だった。特に、社会における自分の立ち位置を見失って精神的に放浪しているシニアにとっては、行動に向けて一歩踏み出す勇気をもらえる作品だったのではないだろうか。
나빌레라 사제 듀오 포스터