「あなたがチョ・グク」The Red Herring(그대가 조국: 2022年5月公開)

◆オススメ度(★〜★★★★★):★★★★

 

◆概略:

イ・スンジュン監督は,制作意図について「チョ・グクを擁護しようとして作った映画ではない」,「チョ・グクは自らが手続上,公正性に反したことを認めている」,一方で,それを糾弾した「検察と言論も,捜査の過程で手続上のルールに違反した」ことを明らかにしたかったと述べている*1

ルールを違反した一方だけが社会的な制裁を受け,もう一方は公正・正義の守護者の仮面を被るのは,健全な民主主義国家のシステムを破壊する行為であり,陰謀である。

この陰謀が,保守政党・検察・保守メディアの連携によってどのように張り巡らされたのか,チョ・グク陣営の目線から検証したのが,この映画である。

 

 ◆見どころ:

個人的には,統一教会系のメディア『世界日報が,検察の圧迫聴取内容をいち早く受け取りチョ・グク側に不利になるようまとめて報道した経緯が,聴取を受けた当人によってリアルに語られていたところ*2に気づきがあった。現在の日本で明らかになった旧統一教会の政治との関わりとオーバーラップして,韓国でも統一教会がメディアを通じて保守政治に深く入り込んでいる現状の一端を垣間見た気がした。
 

◆背景知識:

2019年8月,チョ・グク前民政主席秘書官が,当時の大統領ムン・ジェインにより法務部長官候補に任命された。時を同じくして,野党(保守党)と検察(ユン・ソクヨル検察総長)は保守系マスメディアを動員し,「チョ・グク事態」と呼ばれる一連の反チョキャンペーンを展開する。野党は,チョの政治生命を断つことで,与党「共に民主党」及びムン大統領に打撃を与えようとした。一方,検察は,自らの権力弱体化を招きかねない検察改革を掲げる,チョの法務部長官就任を断じて阻止しようとしていた。

メディアは,それまで清廉潔白な「進歩」派リベラリストと目されていたチョ・グクに,投資・高等教育・就職等において特権を最大化しようとする貪欲な偽善的政治家としてのイメージを上塗りした。

タッグを組んだ野党・検察・メディアは,常軌を逸した方法で,チョとその家族のスキャンダルを増幅させ,起訴によって社会的地位と名誉を剥奪した。罪状それ自体は,大規模な不正ではない。ただ,いずれも社会倫理的に公憤を掻き立てる材料であったことは否めない。主たるは,チョ・グクに関しては,賄賂授受,公職者倫理法違反等であり,大学教授であった夫人に関しては,娘の表彰状偽造,私募ファンド運用における「横領」等であった。

結局,チョ・グクは8月9日に法務部長官に就任したものの,勢いを増す反対キャンペーンにより,わずか35日で退任を余儀なくされた。

この後,検察総長であったユン・ソクヨルは保守党「国民の力」から大統領選に立候補し,僅差で大統領に当選した。彼は検察の権力を温存し,検察関係者を側近に据えて国政を指揮している。人事面で検察関係者を優遇する政策や,外交面での失策,党内部に対するリーダーシップの欠如などが次々と顕になり,ユン大統領の支持率は,5月就任時の53%から8月現時点24%に急落している*3