「Sweet Home -俺と世界の絶望-」Sweet Home(스위트홈: 2020年: Netflix Original)

韓国傑作ドラマ批評(12)
◆オススメ度(★〜★★★★★):★★★
스위트홈메인포스터고화질

◆概略:

  韓国Webtoon(ネット漫画)<스위트홈>が原作のクリーチャー(怪物)ものホラー/ヒューマンドラマ。
舞台は、「グリーンホーム」という名の寂れたマンション。ある日、家族を交通事故で亡くし孤児となったヒョンスが、「グリーンホーム」に引っ越してくる。そこで彼は、怪物化したマンション住民が次々と人間を襲うのを目の当たりにする。怪物化の原因は、正体不明・経路不明のウィルス感染らしい。まもなくヒョンス自身も、大量の鼻血と昏倒といった感染者特有の初期症状に見舞われる。しかし、ヒョンスは完全には怪物化せず、マンション住民たちと行動を共にする。彼らの人間としてのサバイバルが始まった。
 
 ◆登場人物:
  主な登場人物は、自殺願望をもつ引きこもり少年、ヒョンス(송강:ソン・ガン)、殺人請負業のサンウク(이진욱: イ・ジヌク)、特殊部隊出身の消防隊員イギョン(이시영:イ・シヨン)等。他にも主演級の登場人物が5人ほど居て、それぞれの背景が丁寧に描かれている。

 ◆怪物と監督:
 (1)怪物
  ウィルス感染後、怪物になるかならないかは、自分の中にある欲望をコントロールできるか否かにかかっている。この倫理的な要素ゆえに、この作品はただのジャンルとしてのクリーチャーものを超えたヒューマンドラマの性質を帯びている。欲望に身を委ねてしまうと、欲望が人間の身体上に発現する。それが怪物化だ。欲望は人それぞれ異なるので、自然、怪物の姿形も多様になる。もし彼らに欲望以外の感情が残っていたなら、グロテスクな怪物の姿が、自らの欲望の結晶である事実にこの上ない羞恥心を感じたであろう。
ダイエット中の女性が化した食欲怪物は、手当たり次第に何でも食べようとする。入院中の患者が化した吸血怪物は、目の前の人間の生き血を吸い取る。職場のストレスを抱え込んだまま怪物と化した「蓮根」頭のサラリーマン怪物は、目が見えないが鋭い聴覚を頼りに人の気配を察知し、その気配めがけて体から棘を伸ばし滅多刺しにする。まるでストレスを解消するかのように。筋肉と運動に執着していた人間から化したと思われる筋肉隆々の巨大プロテイン怪物は、手当たり次第に住民をぶん殴り踏みつける。他にも、蜘蛛怪物、陸上選手怪物等が、次々と住民たちの行く手に立ちはだかる。
しかし、中には人を襲わない怪物もいた。事故で亡くした赤ん坊への未練を断ち切れないでいた母親は、胎児怪物に化すと自らをトイレに閉じこめた。液体怪物(なぜ液体かは不明)は、子供を危機から救ったが、恐怖に駆られた大人たちによって焼き殺された。
ヒョンスは、自身の怪獣化を意志の力で抑えることができる「特殊感染者」*1となっていた。だが頼みのヒョンスにも、ある時点で精神的バランスの崩壊が訪れる。それは、外部から侵入してきた別の特殊感染者ウィミョンが、マンション住民たちを殺戮し始めた時であった。怒り猛ったヒョンスは、巨大な鋼鉄の翼を肩から突き出して、ウィミョンを抱き込み消滅させた。身体の一部を怪物化させたヒョンスは理性を喪失し、住民にまで襲いかかろうとする。そこに、誰かが身を投げ出した。一番最初に、目玉怪物からヒョンスを救ってくれたドゥシクである。ドゥシクの犠牲によって、ヒョンスは悲しみの感情と理性を取り戻す。
 
 (2)監督
  監督は、「学校2013」や「太陽の末裔」のイ・ウンボク。この監督の美点は、圧倒的な映像美、そして旬な俳優たちから最高の演技を引き出すディレクションのうまさ。ここで起用された新人や、まだそれほど有名でなかった俳優たち(例えば、イ・ドヒョン、コ・ミンシ、パク・キュヨン、キム・ナムヒ)は、これ以降、再評価されスターダムにのし上がっている。
 
  ◆Sweet Homeが投げかけているメッセージ:
  ヒョンスという存在は、世界を単純に二分法で理解することの不可能性を訴えかけている。人間か怪物かで区別できない、人間の心と怪物の力をもったヒョンスという中間的な存在が、二分法を否定する。ここでいう人間の心は、怪物の心と対極にあるものとして浮かび上がる。怪物は、自分の欲望に呑み込まれ、ただただ自分の欲望に従って行動する存在だ。だから怪物の心は、欲望そのものだ。そのような怪物の心から区別される人間の心とは、自分の欲望をコントロールし、周りの人を思いやる心となる。しかしこれは、姿形とは無関係だ。怪物の中にも人間の心をもった怪物はいたし、人間の中にも、他人を犠牲にしてまでも自らの欲望にしがみつく怪物の心をもった人はいる。共同体から隔離すべきは、姿形の違いではなく、怪物の心をもったあらゆる生き物なのだ。姿形は、人種や民族、ジェンダー、障害者差別を想起させる。だからこのドラマは「差別主義者を共同体から追い出せ!」というメッセージを含んでいる。この意味で、オカルト的Sweet Homeは、倫理的な気づきを与えてくれる良質なドラマと言えよう。
   
 
 
 
 
 

*1:15日間の初期症状期間を過ぎても変身しない一方で、怪物がもつ驚異的な再生能力(=不死身)を身につけた人間。