Aladdin (アラジン)ー2019年と1992年の言説比較ー

 ◆オススメ度(★〜★★★★★):★★★★★

 

◆キーワード:

#女性のエンパワメント

#官僚のエンパワメント

 

◆内容と感想:
大筋の内容は1992年と同じだから省く。
歌と鍵となる台詞も、同じ。
これで、この作品の歌と台詞は、いい意味で古典化したなと思った。
それはそれですごいことなのだけど、もっとすごいのは、変化したディテール。
ダンスは操り人形のような動きが今っぽい。
 
ところで、私が特に着目したいのは個々人のセリフのなかに進歩的で鼓舞的なメッセージも含まれているところ。
 このディスニー映画を体験した世界中の子供達は、知らず知らずのうちに、ディズニーが「正」とする人間像や道徳意識を刷り込まれるはず。だからこそ、独りよがりの人間観や道徳意識が描かれていたら、世界中から反発があるだろう。ところがこれが支持される(=ヒットする)理由は、その人間観や道徳意識が、個々人のエンパワメントという時宜にかなった普遍的な潮流に一致しているからだ。
 
個々人のエンパワメントは、民主主義の根幹だ。
今や民主主義は名ばかりで、世界中で権威主義ポピュリズム排他主義が幅を利かせている。この映画は私たちにそれぞれが置かれてきた歴史的位置を省みさせてくれる。
 
■アニメ版では、ジャスミンのエンパワメントはただ「自分の意思で夫を選ぶ」ことまでであった。言うまでもなくそれがエンパワメントになった理由は、当時は自分の意思で夫を選ぶことさえ許されない女性の現状があったからである。しかし今回の実写版では、ジャスミンは「自分の意思でサルタン(王)になることを選ぶ」。女性であっても、自分の意思で政治に参加し、政治的なリーダーになりうることを、またそのような選択を可能にすべきことを、映画はジャスミンを通して呼びかける。四半世紀を経て、女性はやっとこの位置まで来た。感慨深い。女性の歴史的な座標軸をディズニー映画が示してきたことの影響力は計り知れないだろう。
 
■宮廷警備隊長のハキームに、ジャスミンが誰の命令を受けるのか、慣習ではなく自分の意志に従えと訴えたシーンはまるで光州事件天安門事件を制圧した警官や軍人たちに訴えかけているように聞こえる。今も、職責に従う義務があるという理由だけで、独裁者の命令を実行し民主的なデモを流血で抑え込んでいる世界中の公務員/官僚たちに、このセリフは問いかけているようだ。「あなたの人間としての良心、あなたの本当の使命はどこにあるのか」と。